Salesforce1

2013年12月、「Salesforce1」対応の日本製ISVアプリケーション10本が発表された。そのひとつが、株式会社オークニーが開発した位置情報連携ツール「Orkney GeoGraph」だ。 モバイルファースト、APIファーストであるSalesforce1によって、ISVアプリケーションの世界はどう変わろうとしているのか。連載第2回で は、オークニー 森社長にSalesforce1対応製品が生み出す、新しい世界への期待とはどんなものかを聞いた。

株式会社オークニー 代表取締役 森 亮氏
株式会社オークニー 代表取締役 森 亮氏

フィールドで働く人を支援したい。ゲームより熱中する業務ツールを!

「フィールドで働く人の生産性をあげたい」--株式会社オークニーの代表取締役である森亮氏はこう話す。森社長率いるオークニーは2002年に設立。森社長のことば通り、地図とモバイルによって、フィールドワーカーの生産性をあげるソフトウェアを提供している。

2013年12月には、「Salesforce1」に対応した、位置情報連携ツール「Orkney GeoGraph」を発表した。Salesforce1の特性を生かして、モバイル端末に特化した位置情報ツールを提供することで、外回り業務を行う人に とって、より使いやすいものとなっている。

オークニーのユーザーからは、「訪問の際の計画準備に使っていた時間を大幅に減らすことができる」という声があがる。それまで1時間30分かかっていた準備時間が20分に短縮され、その結果、客先で過ごす時間が増えた顧客も存在する。

森社長は、「学生時代のアルバイトを含め、30年間、地図情報に関わっている」という地図分野のスペシャリスト。元々は紙ベースが当たり前だった地 図がデジタル化によって、現在のようにパソコンをはじめ、スマートホンのようなデバイスで簡単に扱えるようになるまでの歴史を目の当たりにしてきた。

「ビジネス領域の中で、唯一取り残されているのがフィールドワーカー。生産性をあげる支援ツールがないまま、唯一取り残された非効率領域です。他の ビジネス領域向けには様々なツールが提供されていますが、フィールドワーカーに対しては依然としてツールよりも、努力と根性で頑張れ!ということばが送ら れる。業務における無駄が依然として多いのにそれを解決することができない状態が続いています」

この問題を解決するためには、地図を使った位置情報システムしかないと森社長は考えていた。ところが、「実際に製品を提供してみると、位置情報システムだけではフィールドワーカーの問題を解決することはできないことを思い知らされた」と森社長は苦笑する。

実際に製品を発売した結果、顧客から寄せられる声が位置情報システムを提供しただけでは、問題解決ができないことを示していた。

2010年、オークニーはセールスフォース・ドットコムとパートナー契約を結ぶ。位置情報システムだけでは実現できない問題を解決するために、セールスフォースのCRM、SFA活用が必要だと考えたからだ。

「昼間、電車に乗っていると、スマートホンを開いてゲームやSNSをしている営業の人をたくさん見かけます。息抜きでもあるんでしょうが、ゲームよ りも熱中するような業務ツールがないからではないかと思います。思わず使っているうちに熱中してしまうような、フィールドワーカーのモチベーションを上げ るツールを提供しなければならないと思っています」

オークニーが目指すのは、これまではあまり試みられてこなかった、フィールドワーカー自身がプラスになるアプリケーションの開発なのである。

モバイル開発の壁を乗り越えるSalesforce1

「エンジニアはSalesforce1の発表を聞いた後すぐ、休憩時間にSalesforce1をいじりはじめ、一晩ですでに動くものが出来上がっていました」

ただし、そこで出来上がったものは全ての機能が動いていたわけではない。その後、さらに改善を進め、2013年12月12日には、「Salesforce1」対応の「Orkney GeoGraph」を発表している。

森社長にとってSalesforce1はまさに、「待っていたもの」だった。

「Orkney GeoGraphには、ウェブブラウザ版とモバイルネイティブ版の両方のバージョンがあります。ブラウザアプリの機能全てをモバイル版に持っていくことは 無理です。このギャップをどう埋めるのかは、大きな悩みでした。その悩みをSalesforce1で一気に解決することが可能となったのです」

フォールドワーカー向け製品では、タブレットやスマートホンのようなデバイスに対応することが必要になる。「ITの世界ではパソコンは一人一台が当 たり前ですが、客先に行くとそうではない企業がたくさんあります。二人で一台、部署で一台といった環境のお客様もたくさんいらっしゃいます」

パソコンを一人一台環境で導入していない企業にとって、パソコンの価格がネックとなっている場合がある。それに対しタブレットやスマートホンは1台当たりの単価が抑えられるので、導入の敷居が大幅に低くなる。

しかし、開発する側にとってはモバイル用アプリの開発は容易ではなかった。APIファーストを標榜するSalesforce1はその問題を解消するパワーを持つ。

「開発側にとっては、モバイルネイティブアプリケーションを開発する際にかかる基礎コストが大幅に削減されることになります。これまでのモバイルアプリ開発で悩んでいた問題がほぼ解消されました。これで本格的にモバイル対応性へとシフトすることができるようになります」

現在、デジタル地図はWeb上で無料提供されているものが多数存在する。その中で、有料サービスを提供するためには、「単なる地図ではなく、顧客に とって価値があるものだと認めてもらうことができるサービスを提供しなければなりません」とフィールド業務の生産性をあげるという点にこだわりを見せる。

フィールドワーカーの生産性向上の大きな武器となるのが、モバイル対応だ。

「先日、ユーザー会を実施しましたが、お客様からは当社のツールを導入する以前は本当に苦しんでいたという声をうかがいました。経営者からは、『一 日でこれしか訪問できないのか?』という声がかかる。より多くの顧客のもとを訪問するためにはIT武装が必要ですが、それがなかなか難しかった。モバイル デバイスはそれを大きく変える可能性を持っています」

モバイルファーストのSalesforce1はフィールドワーク生産性向上の大きな武器となると森社長は見ている。

Orkney GeoGraph

ワークスタイルを変えることが可能に

森社長にとってSalesforce1の魅力はそれだけではない。「他のアプリケーションと共存できることも大きな魅力だといえます」

他社製アプリケーションと連動することができるようになれば、フィールドワーカーにとってはより仕事をする際の効率があがることになる。

「同じ操作体系で他のアプリケーションも利用することができれば、当社製品のユーザーにとっても、生産性をあげることにつながります。フィールド ワーカーにとって、訪問相手の状況は瞬間的に変わります。その変更を考慮しながら、最適なマッチングを行うことができないか。現状では変数が多すぎて解決 はなかなか難しい。これまでは、営業効率をあげるための工夫というとフィールドワーカー向け研修を行うくらいでした。全く違うアプローチでフィールドワー カーを支援していきたい。そのためには、当社のアプリケーションをはじめ、必要なものの連携ができることが望ましいと思います」

Orkney GeoGraphでは、チェックイン機能を使い、訪問した場所を地図上に表示、さらに管理者側はその成果に対して、Chatterのフィードで「イイネ」 をつけ、さらにやり取りをすることができる。リアルタイムでフィールドワーカーとつながり、必要な時に指示を出すこともできるようになる。

チェックイン機能

しかも、利用する人のITリテラシーには関係なく利用することができる。ボタンによる操作で、難しい操作体系を覚える必要がないためだ。

「Salesforce1は、フィールドワーカーを支援していくという当社が目指すことを実現するために、とても向いているツールだと思っています」

Salesforce1の登場で、オークニーのビジネスはさらに大きく広がろうとしている。