Dreamforce・イベント報告 最新のビジネスソーシャル・プラットフォーム

2012年9月19日、セールスフォースは「Dreamforce」を開催、クラウド関係者を中心に、約9万人がサン フランシスコに集まった。750超のセッション、350社超の展示で構成される「Cloud Expo」も併催され、単独企業では世界最大級となるイベントとなった。トップを飾ったマーク・ベニオフCEOのキーノート・スピーチでは多くのゲストが 登場。予定を1時間近く上回る熱演で、ソーシャル化で統合された新しいプロダクトラインが発表された。

このキーノートでは、「Business is Social」というキーワードで、すべてのビジネスはソーシャル化すると、終始「ソーシャル」が強調された内容となった。ソーシャル化の意義は「社員・ 顧客・パートナー」との関係性を深め、そのつながりによって価値を創造すること。そんな調査結果を導いた「IBM GLOBAL CEO Study 2012」を一歩すすめて、「社員・顧客・パートナーおよび製品」との関係性を深めることをソーシャル化の目的と位置づけたところがとても興味深い。この イベントで発表された新製品群の概要、それに社員、顧客、パートナーおよび製品といかに関係性を深めるのか、それぞれ事例を交えながらまとめてみたい。

1. プロダクトラインの全体像

セールスフォースは「Business is Social」というスローガンのもとで、すべてのソリューションをソーシャル化しはじめている。その目的は「社員・顧客・パートナー・製品」の関係性を 深めることだ。同社のプラットフォームは6つの製品群を持ち、それぞれが緊密に連携する。

1. Sales Cloud

カスタマイズ可能な顧客データベースにより、きめ細かな顧客応対と営業効率の向上を実現する、世界で最も普及する営業支援ソリューションだ。今後、この基幹サービスをソーシャルメディアと多様に連携させる方針だ。

2. Service Cloud

カスタマーサービスを支援するアプリケーションで、コールセンター、コミュ ニティ、ソーシャルメディアの連携により、顧客満足度の向上とCS業務効率の向上を実現する。なお、DELLやStarbucksで利用されているアイデ ア・コミュニティはこの機能群に含まれている。

3. Marketing Cloud

ソーシャルメディアをモニタリングして会話に参加できるツールだ。ベースと なっているのは買収した「Radian6」と「Buddy Media」で、 (1)ソーシャルサイトとプログから顧客の声を傾聴 - Radian6 (2)ソーシャルメディアで交わされる会話を多面的に分析 - Radian6/Buddy Media (3)顧客の質問や意見に対してリアルタイムで対話 - Buddy Media という三つの機能から構成される。

4. Salesforce Chatter

企業内におけるコラボレーション・ツールで、機能的にはフェイスブックと類 似している。同僚との交流のみならず、プロジェクトやデータをチームでシェアすることで、社内のビジネスプロセスをソーシャル化し、組織や場所を問わない リアルタイム・コラボレーションを実現する。アクセス権限管理を高度化した Dropbox とも言うべきChatter Boxという機能も追加された。

5. Salesforce Work.com

オープンでリアルタイムな社内評価を実現するクラウドサービスだ。ベースと なっているのは買収した「Rypple」で (1)目標の設定 ~ 個人の目標を会社のゴールとあわせる (2)目的の管理 ~ アドバイザによるマンツーマンのコーチング (3)フィードバックと評価 ~ リアルタイムなフィードバックや感謝の意で表現する評価 の三機能で構成される。評価においてはカスタムバッジやAmazonのギフトカードにも対応する。

6. Salesforce Platform

Force.com、Heroku、Database.com、 Site.com、Chatterおよび ISVforce を統合したアプリケーション・プラットフォームだ。ビジネスのソーシャル化を実現する、カスタマイズされたアプリケーションを開発できる。シングル・サイ ンオンによりアプリケーションを統合した独自サービスも構築可能だ。

2. 社員との絆を深める、フェイスブックの活用事例

フェイスブックはWork.comのファーストユーザーで、現在は3,900人におよぶ全社員が利用している。彼らはお互いが日々どのような仕事を しているのかを知ることができるし、すばらしいことをした人に光をあてることができるようになった。フェイスブックのCIOであるティム・キャンポス氏は 「組織の構造や階層とは関係なく、人と人がつながる環境をつくることが必要だ。また成績評価のときだけフィードバックするのではなく、常にフィードバック をする仕組みも構築したい。そのためにWork.comは重要である」と語っている。

各社員のプロフィールページには、個人の目標、他の社員からのフィードバック、コーチング、業績、報奨が表示され、他の社員も閲覧できる。業績目標 は上司やチームと一緒に設定し、それに対して現在の達成状況が共有される。社員同士は日々の業務中にリアルタイムに感謝の気持ちを伝えることができ、オー プンに褒め合う文化が醸成される。必要に応じてシステム連携しているAmazonのギフトカードを送りあうことも可能だ。一方で、コーチングは上司や社員 からアドバイスを貰うことができるプライベートな空間だ。これらの業績進捗や社内交流に加え、過去の報奨なども記録されるため、特定の人の評価や印象に左 右されず、その社員の職場における真の姿が浮き彫りにされる点がポイントだ。さらに分析ツールでチーム内の好業績の従業員を確認し、誰が昇進するにふさわ しいか判断材料にすることも可能だ。

Work.comの責任者、ジョン・ウーキー氏は語る。「人事向けソフトウェアは、管理ソリューションであり、企業の成功には関係ないと思っている 人も多いだろう。しかし、組織と組織、組織と顧客を結び付け、組織のモチベーションをあげるという点で、Work.comは当分野における新たなアプリ ケーションだ」。

3. 顧客との絆を深める、バージン・アメリカの活用事例

ソーシャルメディア活用で著名な企業の多い航空業界において、最も愛されているエアライン(米国アンプリケイトの調査において、ポジティブ投稿比率 96%)として知られるバージン・アメリカ航空は、セールスフォースを多面的に活用して顧客サービスを高めている。イベントでは、彼らの目指す近未来の 「ソーシャル革命」として次のようなデモが公開された。ちなみにこの機能はSales Clouds、ChatterをベースにForce.comによってカスタマイズされたものだ。

バージン・アメリカのある便が遅れて、定時に到着できない事態が起きた。その背景では同社社員が顧客管理システムで乗客の情報をチェックしている。 同一の画面ではその乗客のソーシャルメディアへの投稿も確認できる。そこで、一人の乗客がその日に極めて重要な用事があり、航空便の乗り継ぎを急がないと 間に合わないことがわかった。その社員は、空港にいるスタッフに彼の誘導を支持するとともに、乗り継ぎ移動経路の地図を添付した。指示を受けた空港スタッ フは、誘導する旨を機内乗客の座席にあるモニターに表示させた。

バージン・アメリカのデビッド・クラッシュCEOは「伝統的な航空会社は、社員の多くが軍出身者ということもあり、指揮統制を中心とする考えが根強 い。しかし、私たちの文化は異なる。グループの垣根を越えたコミュニケーションやコラボレーションを促進していきたいと考えている。それがうまくいけば、 私たちは直接お客様との会話に入っていけるだろう」と語り、顧客との絆を深めるために、バージン・グループの開かれたカルチャーがプラスになっていると強 調した。ビジネスをソーシャル化する。それはテクノロジーの問題だけではない。企業文化や組織、意思決定のメカニズムまで大胆に変革する必要がある。彼の コメントには、そんな大切なメッセージが含まれていた。

4. パートナーや機械との絆を深めるGEの活用事例

社員、顧客、パートナーのみならず、自社製品である機械との対話をはじめているのが米国GEだ。彼らの開発するエンジンなどはインテリジェンスを 持っており、APIを経由して人間とコミュニケーションすることが可能だ。つまり、GEは三方よしを超えて「社員・顧客・パートナー、そして機械」との関 係性を高めるソーシャル革命を目指しているのだ。イベントでは、Service Cloud、ChatterをSalesforce Platformで連携させることで実現されるデモ「GE Share」が公開された。そのシナリオは次の通りだ。

GEの製品であるインテリジェンスな航空エンジンはAPIを持っており、人間のようにChatterにさまざまなステイタスを投稿することができ る。その言葉に呼応して自社社員とパートナー、お客様のエンジニアがコラボレーションし、さらにエンドユーザを含めたコミュニケーションを行う。つまり、 エンジンの周りに「ソーシャルネットワーク」が生まれるコンセプトだ。これにより、企業の枠を超えて、極めて迅速に最善のカスタマーサービスが実現される ようになる。

GE のCIO、シャーリーン・バークレーは彼らの将来像を語った。「これからはビジネスの方法が変わると思います。私にとってのソーシャルというのは、新しい 売り上げ、新しい価値です。非常にシンプルですよ。それは学習を加速化することです。コミュニケーションをよくすることです。正しい人間と正しい情報を正 しい時期に正しいデバイスへ、どこにいてもつなぐことです。GEには30万人の社員がいます。インストールベースもたくさんあります。非常に大切なのはコ ミュニケーションをよくすることです。学習を加速化すること。新しい形でお客様にバリューを持つこと。機械はいろいろなデータを持っています。そのデータ を早くつかんで、それを本当に意味のある情報、例えば機関車を速く走らせるようにする。飛行機の燃費をよくする。これがすばらしい価値になるのです」。