この記事は、米国で公開された「To Avoid the Secondary Effects of the Crisis, Pause the Business Agenda and Focus on Your People」の翻訳であり、部下、チーム、組織を「新しい日常」に適応させるための課題とインサイトを紹介するJesse Sostrinのコラムシリーズの一部です。著者のJesse Sostrinは、Salesforceの事業開発部門のグローバル責任者であり、リーダーシップのあるべき姿について長年思索を重ねています。『The Manager's Dilemma』、『Beyond the Job Description』、『Re-Making Communication at Work』など5つの著作があり、マネージメントやリーダーシップ、キャリアの成功に関して、古い考え方に異を唱える次世代の思想家としても知られています。
今回は、部下を持つマネージャーへの提言として、従業員をさらに団結させ、危機の後に生産性を取り戻すために、リーダーとしてどう振る舞うべきかについて解説しています。
Leading Through Change - いま、私たちができること。-
どんな危機にも2つの段階があります。まず、破壊的な出来事が発生し、それによって実際のダメージが生じます。その後、危機に対応するなかで蓄積したさまざまな影響が表に現れてきます。この1つ目の段階において、リーダーはどうすることもできません。しかし、リーダーの考え方や振る舞い、アクションは、2つ目の段階に大きな影響を及ぼします。
自然災害を考えてみてください。まず地震、ハリケーン、パンデミックといった出来事が起こり、その後、人々が一丸となって対処します。適切な対応をすれば、社会に希望が生まれ、すみやかな人道支援が行われ、インフラ問題が解消されて不安が減り、第1段階のダメージが総合的に抑えられます。しかし、下手な対応をすれば、コミュニケーションの分断や、計画の不全、不均衡が発生し、適切なリソースが提供されず、第1段階のダメージがさらに大きくなるリスクがあります。
適切な対応をするためには、一貫性のある姿勢で部下を大切にし、部下の希望や恐れ、モチベーション、ニーズに寄り添う必要があります。もちろん、問題をすばやく解決する必要がありますが、問題の技術的な側面ばかりに目を向けていると、チームや顧客、ステークホルダーが最も求めているリーダーの姿から離れてしまう危険があります。彼らが求めているのは、彼らの「究極的関心」を守ってくれる人なのです。
リーダーは状況が変化するたびにアプローチを変えていくことが大切です。ここからは、ただ変化に対応するだけでなく、そのなかで部下の成長を促すための3つのリーダーシップ戦略をご紹介します。
「話を聞くことが大切」画像:Flickr/1Day Review
優れたリーダーは、危機が去った後のことを考え、部下をより高いレベルへ引き上げ、全体の状況を以前より良くしようと努めます。そのためには、自分で問題を解決したい気持ちに抗う必要があります。
これは口で言うほど簡単ではありません。リーダーにとって、逆境のなかで自ら行動を起こしたい欲求は抑えがたいものです。多くの場合、リーダーはその不屈の精神ゆえに、あまり周りの状況を見ないまま、自ら主導権を握り、物事を良くする行動を起こそうとしがちです。たとえば、発展途上地域に灌漑システムを導入する国際開発チームを考えてみてください。本来の目的は作物の収穫量向上のはずなのに、結果として水系感染症の急増を招いていることがあります。誰からも頼まれていない新機能をどんどん追加するテクノロジー企業なども同じです。機能を増やした結果、顧客が最も評価していたユーザーエクスペリエンスを台無しにすることがあります。
このように、善意にもとづくソリューションが思わぬ結果を生むことは少なくありません。どんなに優れたリーダーでも、「まず問題を解決する」という考え方のせいで、人間的な要素が見えなくなることがあります。すばやく意欲的な行動と問題解決へのこだわりが、賢明な行動につながるとは限りません。重要なのは、問題を力ずくで解決したい気持ちを抑え、よりスマートで、人間を中心に据えた問題解決のアプローチを考えだすことです。
大切な部下と人間的なつながりを築くには、頻繁に連絡をとり、1人の人間として向き合う時間を作るようにすることです。仕事の話から逸れるのはリスクがあるように感じるかもしれませんが、部下との大切な絆を失うリスクに比べれば、大したことはありません。
時間が経つにつれ、会話がより率直で形式ばらないものになり、安心感や相手への理解、信頼も深まります。リーダーとしてよく考えたうえで、次のようなシンプルな質問をしてみるのも良いでしょう。「プライベートや仕事の状況はどうですか?」「ストレスや課題はありますか?」「私で力になれることはありますか?」「仕事の効率化に役立ち、私の方で用意できそうなリソースはありますか?」「その他のことでも、何か相談はありませんか?」
仕事の話だけをしたり、ごく表面的な会話で終わったり、相手の気持ちや心に触れない関係を続けていると、リーダーと部下の間の信頼と信用が悪化します。リーダーが自ら実体験を話せば、部下にとって身近な存在になることができます。
部下に目を向け、配慮できるようになったら、さらに一歩踏み込みます。危機の渦中にあるときも、危機が去った後も、これができないリーダーは無神経と見なされ、部下の心をつかめなくなるリスクがあります。昨日重要だったことが、今日は重要でなくなる場合もあります。この不安定な状況で、仕事とプライベートの意味や目的を探す人が増えているからです。そして多くの人は、絆を感じない相手にこうした心の奥底の思いを吐露しません。個人の目標とモチベーションに関する研究で有名なカリフォルニア大学デービス校のRobert Emmons教授は、この現象を「究極的関心の心理学」と呼んでいます。
究極的関心とは、私たちの価値観と密接につながる心の奥の願望や目標に影響し、自分に関係があると感じ、人生に生きる意味を与えてくれるものです。恐怖や混乱、無力感への対抗手段にもなります。仕事の話だけをしたり、ごく表面的な会話で終わったり、人の心や気持ちに触れない関係を続けていると、リーダーと部下の間にある信頼と信用が悪化します。
皆さんはリーダーとして、チームや顧客、ステークホルダーの究極的関心を把握していますか?それとも単に問題を解決し、ごく表面的な言葉を交わしているだけでしょうか?
チームにとって何が最も重要かを知るために、まずは自分の関心を話してみましょう。皆さんの価値観や大切なことが思いもよらない方向に変化した場合や、この困難な経験を通じて家族の問題が仕事にも悪影響を及ぼした場合は、そのことを話してみましょう。内容は何でもかまいません。自分の体験を話して、部下に歩み寄りましょう。
部下が大切にしていることをやんわりと探るために、次のような質問をしてみてください。「ここ数週間で大きく変わったことはありますか?」「あなたにとって譲れない価値観や大切なことは何ですか?」「現在どんなことを頑張っていますか?」「どんな小さなものでも構いませんが、あなたに目的や意味を与えてくれるものは何ですか?」
このような質問は差し出がましいと感じられる場合は、「最近の調子はどうですか?」「もっと他にサポートできることはありますか?」といった基本的な質問に立ち戻りましょう。部下の答えを真摯かつ注意深く聞く姿勢があれば、質問の内容はさほど重要ではありません。
上記のような対話をするなかで、解決しなければならない問題や課題が出てくることでしょう。そこで大切なのが、「自分がヒーローになろうとしない」ことです。リーダーとしての仕事は、部下をある状況から救い出してあげることではなく、その状況を共有してサポートすることです。障害物を取り除くのではなく、乗り越える手助けをするのです。窮地にさっそうと現れても構いませんが、部下が自分で課題に気付き、自力で解決できるよう後押しすることが重要です。
より効果的で思いやりがあるサポートの方法は、部下の見守り役になることです。ストレスと緊張が高まっているときに陥りがちな落とし穴を指摘してあげることが、大きな助けになります。たとえば、チームメンバーや顧客が、次のようなよくある問題に苦しんでいる可能性があります。
ニュースやソーシャルメディアに過剰に触れ、際限なく見てしまって情報不安症になり、ストレスで注意力が散漫になる。
あらゆることに敏感に反応し続け、情報を一度に過剰に取り入れることで、すべての目標と優先事項がどれも同じレベルで重要に見えるようになり、本当に重要なことに集中できなくなる。
厳しいメッセージを和らげたり、受け入れがたい真実から目を背けたりすることで「マム効果(沈黙効果)」の状態に陥り、気まずいニュースや悪いニュースの報告を避け、正直なフィードバックをしなくなる。
失敗に対する恐怖とミスを避けたい気持ちから完璧主義に陥り、リスクを避けるようになる。また、大胆かつ迅速で革新的な行動が求められるときでも腰が重くなる。
作家のKevin Graham Ford氏とJames Osterhaus氏は、こうした見落としがちなポイントを「藪に潜むもの」と呼びました。これは、人々が不安な気持ちを抱えている今の状況を的確に表すたとえです。このような理由でパフォーマンスが落ちている人がいたら、それをやんわりと指摘し、問題解決に導く手助けをします。たとえば、「こういう傾向が見られますが、自分ではどう思いますか?」「どこで行き詰っていますか?」「今までどんなことを試しましたか?」「手伝えることはありますか?」と聞いてみましょう。このように寄り添うアプローチをすると、部下はリーダーのサポートに感謝し、次は自分でできるように頑張る気持ちになります。
以上3つの手法は、どの役職レベルのリーダーでも使えるものです。この3つを組み合わせることで、リーダーの究極的関心である「人」を第一にすることができます。この考え方は、危機の渦中や危機の後に信頼を維持するために不可欠なだけでなく、生産性と効率性を取り戻すための基本要件となります。
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