生産性向上は、事業の持続的な運営において常に心掛けなければいけないことの1つです。しかし、目標としてはいるものの、業務体制を変えるリスクがあるなどの理由から、抜本的な社内改革を進められないという組織も多いと思います。
そこでここでは、生産性が落ちてしまう代表的な要因、および生産性向上に必要な視点について説明します。名ばかりの働き方改革ではなく、社員の幸福度や売り上げを改善するための本質的な「働き方改革メソッド」を確認していきましょう。
企業や組織には、事業を継続する中で気づかないうちに、様々な無駄や物事の重複が生まれます。そうした無駄は、増えていく時には気づかないものですが、いざ削ろうとすると組織の体質や慣習が邪魔をして、削られないままズルズルと対策が先延ばしされてしまうものです。
ビジネスにおける「生産性」とは、そうした無駄を極力なくし、企業が有する経営資源を最小公倍数的に活用して成果、価値を生み出す指標です。少ない労働力・時間によってビジネスで大きな成果をあげられたとすれば、それはすなわち高い生産性を実現したものとして評価されるべきものでしょう。
生産性の低下の多くは、これまで多くの日本企業が抱えていたいくつかの課題が要因となっています。ここでは、想定されるその要因について見ていきます。
私たちが日々携わる業務は、そのすべてが重要な役割を持っているわけではありません。どのような業界・業種であったとしても、優先度の高い業務と優先度の低い業務が存在しています。そして、生産性の低いチームは、優先度の低い「無駄な業務」に多くの時間を取られている場合が大半です。
パソコンならすぐ作成できる簡単な書類をあえて手書きで作っているチームをイメージしてみてください。そのチームにパソコンを導入し、ExcelやWordの使い方を教えれば、業務時間を10分の1に削減することができるかもしれません。業界や組織の規模によってベストな対策法は異なりますが、こういった「改善余地のある非効率的な業務方法」を行っているチームが、実はまだまだ非常に多いのです。
従来、日本企業の多くは年功主義をとってきたため、社員は成果よりも勤続年数や実年齢が昇給・昇進の要因となっていました。しかし、生産性向上を目指すということは、いわば成果にコミットする成果主義の考え方が強くなることを意味しています。つまり、従来の「結果ではなく過程を重視する」という風習は、生産性を追求する意識を妨げる要因となっているとも判断できます。
コスト削減を図って経費を縮小することは、企業が利益を追求するうえで重要な施策です。しかし、コスト削減にのみ意識を向けていては、生産性向上のための抜本的な業務改革にはたどり着きません。
ある程度のコスト削減を進めたあとは、金銭的な無駄ではなく「業務におけるリソース配分の無駄」を洗い出し、非効率的な労働環境を刷新することで、生産性はさらなる向上が見込めます。
日本企業が全体的に力を失いつつあるいま、生産性向上を達成するためには、広い視野を持つ必要があります。海外と比較したときに浮き彫りとなる「日本のビジネス課題」にしっかりと向き合わなければ、既存の常識を超えた抜本的な生産性向上の実現は難しいでしょう。
では、具体的にどのようなビジネス課題に注目すべきなのか、順を追ってご説明します。
少子高齢化の加速により、今後日本の労働人口はますます減少することが予想されています。そのため、1人あたりの生産性を高めていく必要があります。
かつては通用した「数の力で解決する」という手法は、今後の日本にとっては難しい選択肢です。労働人口の減少が避けられない以上、生産性向上は誰もが意識しなければならない課題なのです。
各国の競争力を集計し「世界競争力年鑑」を作成するIMDの発表によると、2019年度における日本の競争力は30位となっています。1990年前後の日本は、この調査において連続して競争力1位を獲得していました。その過去を考えれば、今の日本がいかに世界各国の成長に後れを取っているかが分かります。
こうした競争力の下落を招いている最大の原因は、ビジネス効率性の鈍化です。既存システムを覆すような抜本的な改革を苦手とする日本企業、ひいては日本社会の体質が災いし、国際競争力という指標に出ているのだと考えられます。
日本企業はサービスの「質」を追求する傾向にあります。もちろん、質の高さは顧客満足度を追求するうえで重要ですが、行き過ぎたサービスの追求は生産性の低下につながってしまいます。お客様目線に立ったホスピタリティの追求は顧客としては魅力的ですが、企業に生産性向上のメリットをもたらす可能性は残念ながら低いのです。
生産性向上により、具体的にどのような変化が得られるのか、あらゆる業種に共通するであろう3つのメリットをご説明します。
生産性が向上すれば、1人の社員がこなすことができる業務の量が増えます。つまり、いままでの業務量をより少人数でこなしたり、従来以上の業務量を既存の社員のみで完遂したり、人手不足によるキャパオーバーに悩まされない体制構築が可能となります。
生産性向上は業務時間の短縮に直結します。社員の時間と労力を消費する長時間労働がなくなり、残業の削減にもつながります。
生産性の向上は、時間・お金・労働力といった経営資源を投じる割合に対し、より大きなリターンを得られることにつながります。労働環境や企業イメージなど、あらゆる面が既存の体制より改善されたものとなり、結果的に売り上げ増加に結びつきます。
業務を効率化し、生産性を向上させるためのステップは、決して難しいものではありません。しかし、「今までの業務体制でも大きな問題はない」「今までの枠組みを何とか維持しよう」という発想がある限り、それはなかなか実現できるものではありません。
ここでは、社内改革を完遂する強い意志を持って生産性向上を実現させるために必要となるステップを紹介します。
従来の業務フローは一見すると最適解のように思えるかもしれませんが、そのフローが完成した時と今とでは社内外の状況が少なからず変わっているはずで、そこには何らかの無駄が生じている可能性があります。そうした無駄がないか、まずは、既存の業務内容を書き出し、業務フローを1つずつ確認していきましょう。
なお、このときには各業務を個別に見直すのではなく、初めは全体から見直すことをおすすめします。ビジネスシーンにおいては「戦術より戦略が重要だ」といわれるように、全体像を把握してから個別具体的な施策考案に進めたほうが、物事はスムーズに進行しやすいものです。
業務遂行を社員の感覚に任せている部分があるとしたら、そこにも改善の余地はあります。いわゆる「マニュアル化」や「可視化(見える化)」によって業務効率を最適化し、仕事のクオリティを一定に保ちましょう。一度マニュアルを作成すればそれにもとづいた進捗管理ができるようになり、以降の問題発見・解決が容易になります。
重要度の高い業務に集中できる環境を用意するためには、重要度の低い業務を削減できるような設備投資を行ったり、人的リソースの最適化を図ったりといった働きかけが必要です。
前者は、後述するITツールの導入によって実現できる可能性が高い項目です。一方の後者は、ゼネラリストばかりを育成する傾向の強かった企業が一考すべき項目といえます。
広範囲の業務を平均点以上でこなすゼネラリストは会社にとって貴重な人的リソースですが、すべての社員がゼネラリストの素養を持つわけではありません。社員の性格や過去の実績を加味し、得意分野に特化させたスペシャリストを育成するなど、人材育成やリソース配分の最適化を図りましょう。それぞれの社員が「自身に与えられた重要度の高い業務」を高効率でこなせれば、環境を抜本的に変わっていくはずです。
ITツールは日々止まることなく進化しており、数年前は人間にしかできなかったような作業を担う業務自動化のITツールが続々登場しています。その代表格として知られるツールが、以下のようなものです。
RPAは、人間が担当していた単純作業に近い業務を覚えさせて、プログラム上のロボットにその業務を任せる技術です。
多くのデータをもとに高精度な予測を行うAI(人工知能)も、これまで人間が経験や勘に頼って処理していた業務のサポートに役立ちます。単純作業の処理を得意とするRPAに対して、AIはより付加価値の高い部分を担う存在だといえるでしょう。
時間や場所にとらわれずデータの保管・移動を行えるクラウドサービスの利用は、もはや生産性向上を目指すうえで不可欠だといっても過言ではありません。組織のポテンシャルを底上げするためには、上述したようなITツールの導入が重要となります。
ITツールの導入や業務体制の刷新には、教育面のコストだけではなく金銭的なコストを要します。こういった課題を解決するために、積極的に補助金を活用すべきです。たとえばテレワークを普及させるための助成金であれば、厚生労働省が「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」という名の支援制度を設けています。数十万円、数百万円の支援を受けられる制度が複数ありますので、情報収集をして社内改革に役立てることを推奨します。
業務効率化による生産性向上は、平成以降に国際的な競争力を失ってしまった日本の企業にとって、強く意識すべきミッションです。そのミッションを達成することが日本の経済の回復に直結するといっても過言ではないでしょう。
ぜひあなたのまわりにおいても、一見完成されているように見える既存業務をしっかり見つめ直し、どの部分に課題や改善の余地があるのか探ってみてください。きっと、思わぬところに思わぬ無駄が隠れているはずです。
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