「Alexa、ゴミの回収を手配して!」うっかりゴミ出しを忘れてしまった朝、回収時間に遅れたことをスマートスピーカーに伝えるだけで、収集車がすぐに回収に来てくれたら...。たとえば街の信号機が故障してしまった時に、自動で修理を手配したり、住民がトラブルを回避できるようアプリで知らせてくれたら...。

これらは、決して遠い未来の話ではありません。ノースカロライナ州の人口16万2,000人の町、ケーリーでは、今まさにこうした「住民を中心にしたスマートシティ」が実現されつつあります。(詳しくはこちらの動画をご覧ください。)

 

「テクノロジーの進化は、便利な社会を生み出すだけではありません。社会課題の解決に貢献できるはずです。Salesforceでは単なる企業メッセージではなく、社会課題解決に向けた活動に強力にコミットしています」と語るのは、「C4IR Japan(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター)」でフェローを務めるセールスフォース・ドットコム 執行役員の今井早苗です。世界経済フォーラム第四次産業革命センターは、新しい科学技術の活用方針やガバナンスへの新たなアプローチを共同でデザイン、実行するための組織であり、サンフランシスコに最初のセンターが置かれ、2つ目のセンターとして日本センター(C4IR Japan)が設立されました。Salesforceは、サンフランシスコ、日本両センターの設立メンバーとなりました。

なぜ、Salesforceでは「C4IR Japan」の活動に力を入れているのでしょうか?

「C4IR Japanは、世界経済フォーラムが、日本の経済産業省(METI)及び一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(APInitiative)と提携して設立されました。つまり、日本政府が民間と共にセンターを立ち上げた初の事例です。ガバメントだけでの課題解決には限界があり、その枠を超えて挑戦しようという強い意志の表れです」

いくらテクノロジーが進展しようとも、それを活かすためのポリシーや法律、ガバナンスが整備されていなければ上手く運用することはできません。

「そこで、Salesforceでは、技術面での先進性はもちろんのこと、C4IR Japanのようなポリシー策定や法整備の場を重要視し、その両輪で業界をリードする活動をしているのです」

 

地方の高齢者を「地方型MaaS」で救えるか?

 

近年、大きな話題となった児童虐待や各地で甚大な被害をもたらした自然災害、貧困、少子高齢化など、世界中でさまざまな課題が顕在化する中、先進テクノロジーを活用して社会課題を解決しようとする取り組みも増えています。Salesforceのテクノロジーは、実際にどのように役立てられるのでしょうか。1つは、日本でも重要視されている「地方型MaaS」の分野です。

地方におけるモビリティの課題には多くの自治体が頭を悩ませています。少子高齢化により採算の合わなくなった公共交通機関は赤字運営が常態化し、下手をすると廃止の憂き目を見ています。また、交通事故の危険性から最近では高齢者の免許証返納の動きも強まっています。当然ながら、すでに高齢者の中には買物困難者が出現し、ひきこもりになるなど多くの問題が発生しています。この問題は、C4IR Japanでもプロジェクトを立ち上げ、検討しています。

こうした課題に、Salesforceがどのような解決策を描けるのか、「まずは、バスや電車、タクシーにライドシェアといった色々な手段を組み合わせ、一人ひとりに最適なマッチングを実現します」と今井はそのビジョンを語ります。「そのほか、データを分析することで政策立案にも役立てられます。例えば、コミュニティカーをどういうルートで周れば多くの利用者をカバーできるのか。またAIなどで予測を強化することで、コストの集中と削減が可能となります」

現在のルート検索アプリでは、都市部であれば簡単に目的地まで経路が案内されますが、地方ではコミュニティバスの運行状況まではカバーしきれません。既にSalesforceのコミュニティでは、地方におけるルート検索を一元化する取り組みが始まっています。

「しかもそれは入口に過ぎません。その先には買物支援などを包括し、さらにIoTセンサーなどと連携することで、例えば迷子が疑われる高齢者にはバスの運転手が声をかけたり、警察へ通報がいくなど『見守り』にも発展する世界を目指しています」

海外に目を向ければ、そんな世界観が実現しつつあります。ニュー・サウス・ウェールズ州では、市民に向けた柔軟な交通案内をSalesforceのプラットフォーム上で実現しました。例えば、あるバス路線で事故が発生した場合、混雑状況をリアルタイムに把握し、一人ひとりの行き先にあわせた途中迂回路などを促しています。(詳細はこちら)。日本でも遠くない将来、こうしたパーソナライズされたサービスが展開されていくはずです。

 

 

虐待を止める命綱、「一人の子ども」を中心にした情報集約

 

また、多くの人々が胸を痛める「児童虐待」にもSalesforceは役立てられます。

いまや全国の児童相談所への自動虐待相談対応件数は急増しています。2017年度の相談件数は13万件を超え、5年前と比較するとその数は倍増しました。それだけ対応する担当職員は多忙を極めているのです。 

「児童虐待の被害にあう子どもたちを救うには、まず多忙を極める児童相談所職員の業務を効率化しなければなりません。その上で、役所や警察、学校などの関係部署の情報共有が不可欠です。しかも、ただ情報を集めるだけでなく“一人の児童を中心に据えた支援”ができなければ、児童虐待を食い止めることはできません」

こちらもニュー・サウス・ウェールズ州の例ですが、児童福祉の分野でもSalesforceを活用しています。虐待防止システムの通告ポータルをわずか6週間で構築。現在では「ChildStory」と名付けられた情報プラットフォームに、一人の子どもを中心に、家族はもちろんのこと、ケースワーカー、サービス提供者などから集められた情報が一元化されています。さらに、その情報には医師、警察官、教師などがアクセスし、適切な保護や意思決定を関係者が判断できるようなサポートが行われています。

日本の関係機関でも導入が検討されており、自動虐待防止のための施策が動くことが期待されています。

 

 

災害時も個人に特化した情報提供を実現

 

このほか、災害対策も日本社会では大きな課題です。地震ばかりでなく、近年では大雨や台風による被害も驚くほど発生しています。

自治体では、市民を守るために様々な施策を検討していますが、茨城県守谷市では、普段は様々な生活情報を配信し、災害時には安否確認や被災状況が確認できる市公式のアプリをSalesforceで構築しました。「Morinfo(もりんふぉ)」と呼ばれるこのアプリは、カメラと衛星利用測位システム(GPS)による投稿機能が存在し、市民との双方向のやりとりが可能になります。例えば、電柱が倒れているなど危険な場所を市民がスマホのカメラで撮影し送信することで被害状況のリアルタイムな集約・周知を実現。また、要救助者の投稿も行えます。

「優れているのは、普段づかいのアプリが何かの際には自動的に災害モードに切り替わるところ。また守谷市では昨年からこのアプリを使い実際に防災訓練を行っているため、いざという時の実行力にも期待が持てます」

このほか、海外ではさらに進んだ取り組みが行われています。Salesforceの社員が創設者の一人であるABOUT BEACON NGO Beacon NGO.orgでは、Salesforceと他のテクノロジーを組み合わせた「beacon」というシステムが活躍しています。 

これは、避難情報を個人に特化して提供するもの。ハリケーン襲来時に、例えば健常者であればある程度雨脚が強くても避難を推奨し、避難行動要支援者なら2階に避難を促すなど一人ひとりに最適化した避難指示を提供します。ほかにも、避難所からいつ自宅に戻るべきか、ドローンで把握した居住地域の被害状況や天候情報、個人の条件などを考慮しながら個々人に特化した情報提供を可能にしています。

いずれの課題でも重要となるのは、「一人ひとりに向き合った対応」。SalesforceはCRMを提供しているだけにそうした展開を得意としています。「しかも、現場担当者が開発もできるので迅速な対策が実現します。そして、私たちには志を同じくするパートナーやユーザーがいます。どうしたら社会をよりよくできるのか。様々な側面からみなさんとともに挑戦していきます」。