独立系SIベンダーの富士ソフトでは、新たな営業基盤システムの実現に向け、Lightning Experienceを導入しました。それまでClassicを利用してきた同社では、自社の業務に合わせたカスタマイズ機能の移行や初期投資費用を考えると、なかなか切り替えに踏み切れませんでした。しかし、Lightning Experienceを導入した今、「移行は少しでも早く行うべき」と訴えます。

新たな営業基盤づくりをLightning Experienceで挑戦

―プロジェクト立ち上げの経緯とその成果について、同社執行役員の三田 修氏は次のように語ります。

富士ソフトは組み込み・制御系から業務系まで幅広い領域にわたるトータルソリューションを提供しています。それに加え、近年力を入れているのが「AIS-CRM(アイスクリーム)」戦略です。注力分野であるAI、IoT、Security、Cloud、Robot、Mobile&Automotiveの頭文字から命名し、最先端技術への取り組みを積極的に行い、付加価値向上に努めています。その一つが自社開発した小型ヒューマノイドロボット「PALRO(パルロ)」です。介護施設などのコミュニケーションツールとして活用されています。
このAIS-CRM戦略を推進するためには、これまで以上に「攻め」の営業が欠かせません。そこで昨年、新たな営業基盤の実現に向けてLightning Experienceを導入しました。分断された営業活動を一元化し「見える化」する。そして営業活動のリアルタイム集計・分析により、さらなる営業生産性の向上を図るのが狙いです。

トータルで見れば、初期コストの回収も短期間で行える

Lightning Experienceの導入には、反対意見も根強くありました。社内には作り込んだ機能が多くあり、不便な部分はExcelのマクロ機能で補っています。「なんとかなっているものを、わざわざ変える必要があるのか」というのがその理由です。「なんとかなっている」、これこそが曲者なのです。また、新たな導入によりコスト負担が高まるのではないかという懸念も反対要因の1つでした。

それでも、「『攻め』の営業で生産性向上を図る」という揺るぎないビジョン実現に向けて移行を断行し、わずか5カ月で全社展開を完了させました。コストについても、ExcelやBIツールの削減、作り込んだ機能の保守やバージョンアップに伴う手間などが不要になり、大幅に工数を削減することに成功しました。Lightning Experienceへの投資は約1年半で回収できる見込みです。Lightning Experienceへの移行についてコストが課題となっているとしたら、「本当に全体を見てコストを算出をしているのか」という点を確認することを強くおすすめします。

約5ヶ月の開発秘話〜現場目線の運用と使いやすさへのこだわり

―新たな営業基盤システムは現場目線のユーザーが使いやすいシステムでなければならない。プロジェクトをやり遂げる体制として、社内で経営層、ユーザー層、自社開発部門を巻き込むだけでなく、プランニングからシステムの定着化まで支援するSalesforceのコンサルタントサービスも利用しました。実際の開発プロジェクトをリードした同社の市川 敬己氏が開発秘話を次のように語りました。

CRM業務とSalesforceに関して豊富な経験とノウハウを持つSalesforceアーキテクトのサポートを受け、まず取り組んだのが開発と現場の認識合わせでした。Lightning Experienceは自由度の高さが強みですが、表現のバリエーションが豊富で優劣をつけにくい。そこでステークホルダーの意見を集約し、ルールを明確化しました。たとえば、詳細・関連・活動・グラフなどの種別ごとに情報を表示したり、情報の配置箇所にもポリシーを設けて判別しやすくしました。営業活動の「一元化」と「見える化」を第一に考えたので、情報入力基準を従来より緩めにしています。すべての情報が揃わなくても、入力作業を先に進められるので、入力のハードルが下がります。認識合わせのプロセスを通じて「思いを共有する」ことができた点も大きな成果であったと感じています。

機能的に使いやすさにもこだわり、一部自社開発も行いました。Lightning Experienceのタブと画面テンプレートを使うことで、従来のSalesforceでは複数画面をまたがないと確認できない情報を一画面に集約。また、入力データのクオリティを短時間でチェックする機能としてLightningコンポーネントを開発して組み込んでいます。実は、現状では追加コンポーネントはモバイルに反映されないのですが、この課題も独自開発で乗り越えました。画面上にボタンを追加し、ここをクリックすると別画面が立ち上がる仕組みです。

さらに、業務とSalesforceの設計のギャップを埋める数々の開発にも着手。営業の活動報告の内容と商談内容の不一致を是正する仕組みや、共同受注や分割検収などSIベンダー独自の金額管理にも対応しました。

定着化とAIへの取り組み

移行から約1年が経ち、成果も着実に上がっています。ログイン率は97%、営業現場では利用が習慣化しています。今まで各営業が潜在的に持っていた案件の顕在化にも成功し、システムに登録される案件数は10倍に拡大、営業活動の「見える化」が大きく加速しました。
一方で、完了予定超過案件が13%あり、1人当たりの1カ月の活動報告数も16.5回に留まっています。これを引き上げていくのが今後の課題です。具体的には、定着化のための体制を構築し、各部から選出した活用リーダーがSalesforceアーキテクトのサポートを受け、吸収したノウハウを現場にフィードバックする活動を続けています。

また、営業活動の質を高めるためにAIへの取り組みも進めています。現在、富士ソフトでは「意味理解エンジン」AIの開発に取り組んでいます。この機能を営業報告のレビューに取り込むことで、報告書の内容を理解し、不足している内容やリスクを指摘することが可能になります。これをEinsteinの商談スコアと連携させることで、より精度の高い営業活動の実現を目指します。

関連リソース

登壇者一覧

富士ソフト株式会社
執行役員
営業本部 副本部長
三田 修氏

富士ソフト株式会社
金融事業本部金融DX事業部
市川 敬己氏