顧客からの商品・サービスにかかわる問い合わせへの対応や保守サービスの受付など多様な業務を行うコンタクトセンター。メーカーやサービス業などをはじめとする広範な業種の企業にとって重要な顧客接点となっていますが、今まさにそのあり方が大きく変わろうとしています。
2017年9月には、セールスフォース・ドットコム(以下、Salesforce)とアマゾン ウェブ サービスジャパン(以下、AWS)が、両社のアライアンスにもとづく新たなコンタクトセンターソリューションの提供を発表しました。それによりコンタクトセンターが現在抱えるどのような課題が解消され、いかなる可能性が拓かれるのか――。今回のソリューション提供に携わる、両社のキーマンが語り合いました。
(写真:写真左より、セールスフォース・ドットコム 御代 茂樹
右 アマゾン ウェブ サービス ジャパン 木村 雅史氏)
コストセンターとして扱われてきたコンタクトセンターを、ビジネス価値を生み出すプロフィットセンターへと転換させていこうとする動きが本格的に進みつつあります。一方で、今日のコンタクトセンターをめぐっては、さまざまな課題が浮上しているもの事実です。就労人口が減少する中、一般に離職率が高いとされるコンタクトセンター業務における人員をいかに確保していくか。そしてメールやWebサイト、チャットなどによるオムニチャネル化への対応も、今日のコンタクトセンターにおける重要な課題と言えます。
御代:とくにプロフィットセンターへの変革は、顧客が企業を選別する今の時代にあって、企業が生き残っていくうえで重要なカギを握っています。Salesforceでは、お客様のコンタクトセンターを、よりプロアクティブな形で顧客のロイヤリティを高める存在へと変革していこうとしています。そのような中、ベストなタイミングでAWSさんとのアライアンスが実現したのです。
(写真:株式会社セールスフォース・ドットコム
マーケティング本部 プロダクトマーケティング シニアディレクター 御代 茂樹)
(写真:アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社
エンタープライズソリューション部 ソリューションアーキテクト 木村 雅史氏)
木村氏:2017年9月には、我々AWSとSalesforceのアライアンスにもとづき、当社のAmazon Connectと御社のSalesforce Service Cloudを連携させたコンタクトセンターソリューションの提供を発表しました。Amazon Connectは、膨大な顧客を有するAmazon.comのコンタクトセンターで利用されているテクノロジーを100%クラウド型でお客様に提供するもので、圧倒的な信頼感があります。さらにSalesforce Service Cloudと連携したことで、コンタクトセンター機能に、CRM内に保管された営業やマーケティングなどさまざまな部門を横断するデータが統合できます。これによりクラウドのメリットをソリューションとしてお客様に提示できる形が整いました。
谷川:この発表後、驚くほどの反響をいただきました。当初我々はスタートアップ企業様からのお問い合わせが多いのではないかと予測していたのですが、実際のところは大企業様からの問い合わせも非常に多くありました。たとえば想定外のリコールが発生した際の緊急対応としての仕組み、キャンペーンやイベントに応じた受付窓口、さらには新規事業立ち上げに対するコンタクトセンターのスピーディな設置などの要望です。企業の一部門でコンタクトセンターを立ち上げたいという潜在的なニーズが多くあったにもかかわらず、これまではセンター設置の設備投資や構築にかかる時間が課題となっていたのです。
(写真:株式会社セールスフォース・ドットコム
ソリューション営業本部 Service Cloud 営業部長 谷川 尚之)
木村氏:もともとコンタクトセンターというものは、物理的なファシリティであり、その設置にはスペースの確保からハードウエアの調達、PBXなどを含むシステム構築をはじめとする一連の作業が必要でした。規模にもよりますが、それには3カ月から6カ月、場合によっては1年という期間を要していました。これがAmazon Connectならセルフサービス型の数ステップの作業で、数時間~1日もあれば立ち上げることができます。また、ハードウエアへの投資は不要で、電話番号の利用も含めて完全に従量課金制のため、初期投資を抑えられるコストメリットもあります。
御代:一方、当社のSalesforce Service Cloudもビジネスの伸張に応じて、お客様自らの手で成長させていけるクラウドベースのCRM基盤です。さまざまな作業を行うにも1つの画面で効率よく行うことが可能です。効率化されたオペレーションは、スタッフが個々の顧客とより密接につながって価値提供を行ったり、各人のモチベーションを向上させたりすることにもつながるでしょう。これは人員確保にかかわる問題にも有効であり、離職率を下げることにつながると考えています。また、オムニチャネルに関するすべてのサービスをService Cloudで対応できることも、現在のコンタクトセンターが抱える課題解消に貢献できます。
御代:Amazon ConnectとSalesforceが連携したことで、非常に信頼性の高いクラウドベースのコンタクトセンターソリューションが誕生しました。このインパクトは大きく、とくに信頼性が求められる金融機関様からもお問い合わせをいただいています。これまでコンタクトセンターを構築するとなれば必ず情報システム部門に入ってもらう必要がありました。しかし、クラウドベースの両社が組む今回の連携は、テクノロジーの難易度を格段に下げることになり、事業部だけでの構築を可能にしました。つまり、現場でのアイデアをすぐに形にし、新たなビジネスチャンスを広げるお手伝いができるのです。
木村氏:さらに、IoTや機械学習関連のサービスにも両社は力を入れています。より高度なレベルで業務の効率化、サービス品質の向上、そして新規ビジネスの創出に役立てられるはずです。とくに最新の機械学習関連のトピックスとして紹介したいのが、先日発表したAWS DeepLensと呼ばれる、ディープラーニングに対応した開発者向けビデオカメラです。機械学習や深層学習のテクノロジーを装備し、画像認識や音声認識が行えるようになっています。1つのユースケースをあげるなら、たとえば遠方の家族のもとにクラウドと連携したこのデバイスを設置し、カメラの画像や音声を通して、当の家族の状況をモニタリングします。そこで万一、普段の生活のリズムと違っているなど、何らかの変化が検知された時には、デバイスがコンタクトセンターに通知し、コンタクトセンターからお客様にその旨電話をして状況を確認するといったことがSalesforce Service Cloudとの連携により可能になるわけです。
竹部氏:その際、仮に電話をかけるオペレーターが不在の場合にも、Amazon Lexというチャットボットの技術を利用することで、バーチャルオペレータが電話をかけて音声により状況確認を行うといったことも実現できます。
(写真:アマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社
テクノロジーパートナー部 ストラテジックアライアンスマネージャー 竹部 智美氏)
御代:当社においても、もちろんAIやIoTといった先端技術領域についての取り組みを強化しており、両社ともにインフラ上にオプションとしてそれらの技術をいつでも追加できるのが魅力です。SalesforceのAI・Einsteinは、現在続々と拡張しています。たとえばすでにEinsteinでは、Salesforce上で次の作業をサジェスチョンできます。これはオペレーター作業の効率化を促す他、トレーニング期間の短縮にも効果が見込めます。さらに独自にカスタマイズした機能にEinsteinを組み込めるようにする「MyEinstein」の登場の他、今後は機械学習を中心とした自動予測機能も強化されていきます。
木村氏:一方で、冒頭でも述べたコンタクトセンターをプロフィットセンターに転換していくという観点からは、コンタクトセンターサービスに連なるセールスや、マーケティングといった業務領域が密接に連携していくことも重要ですね。
御代:すでに当社のユーザーの中には、グループ企業の中で業種業態を超えたクロスセルでコンタクトセンターから連なるカスタマージャーニーを完全に1つのストーリーに仕上げている企業様もいらっしゃいます。たとえばある顧客がどの製品をどういうチャネルで購入し、それをどのような形で利用して、どういう点を評価しているのか、反対にどのような点を不満に感じているのか。それらの情報を一貫して捉え、関連する製品やサービスを提案するマーケティングを行っています。
木村氏:コンタクトセンターがお客様のビジネスの1つの起点ともなり得るわけですね。そうなるとAIを活かす点でもそうですが、とてつもないデータ量になってきます。自社でインフラを購入するモデルではとても負荷に耐えられなくなってきます。もはやコンタクトセンターという単なる箱を作っても意味がありません。成長にあわせ、コンポーネントを組み合わせるかのように、柔軟な仕組みをスピーディに構築できなければ意味がないのです。
御代:市場環境やテクノロジーが激変する中で、現在の地点から数年先のコンタクトセンターの姿を想像するというのは率直に言ってナンセンスです。走りながら柔軟に将来の姿を想像する必要があります。両サービスは共に頻繁なバージョンアップが魅力のサービス。お客様のビジネスチャレンジに追従できるソリューションであると確信しています。