膨大なデータを高度に分析し企業や社会に有益な価値をもたらす「データサイエンス」という言葉が広く聞かれるようになってから早や数年が経ちました。データから導かれる予測は、企業の未来の成長を占う大きな指標となり得るものであり、ビジネスシーンにおいて決して無視できない取り組みとなりつつあります。

では、ビジネスにおいてデータサイエンスを取り入れるには何を知り、何に取り組めばいいのでしょうか。ここでは、ビッグデータや人工知能(AI)の技術革新により必要とされる「データサイエンス力」について詳しく解説します。

 

ビッグデータとは

ビッグデータとは、単純にデータの量が多いことだけを示すものではありません。そこにはどのような意味が含まれるのかをはじめに確認しましょう。

 

ビッグデータの定義

ビッグデータという言葉については、統一的に決められた定義があるわけではありません。しかしながら、現代のビジネスにおける文脈では一定の共通認識があります。データが大量にあることに加え、データの種類が多様、データの発生頻度やスピードが高速化していることなどが、ビッグデータという概念を成立させています。これらは「3つのV」とも呼ばれているものです。

  • Volume 容量
  • Variety 種類
  • Velocity 頻度・スピード

※この3つにさらにデータの価値(Value)という考え方を加えて「4つのV」とすることもあります。

このような特徴をもつデータそのものと、それを使ったソリューションをビッグデータと呼ぶのです。

 

ビッグデータが必要とされた背景や流れ

ビッグデータの活用は、ITシステムを取り入れて業務を行う企業にとって、日々溜まっていくデータを有効利用して新たな価値を生み出す手法の一つとして注目を集めています。以前は、その有用性に気づいていたとしても技術的な制約により実現できない状況にありましたが、今日では実現可能なレベルとなっており、さまざまな分野で活用が始まっています。

ビッグデータの利用が可能となった背景には、IT技術の加速度的な成長があります。

  • デジタル化の普及
    コンピュータやスマートフォンの普及、高速化により、世の中の様々なことがデジタル化され、またデジタル化により、データとして集めることができるようになりました。
  • インターネットの発展
    インターネットの発展により、デジタル化されたデータはインターネット上を行き交い、集積、連携することができるようになりました。
  • データベースの物理的限界の回避
    データの分散管理の手法が確立されたことで、大量のデータを保有することができるようになりました。
  • ストレージコストの継続的な低下、データマイニングおよびビジネスインテリジェンス(BI)ツールの成熟 ビッグデータを解析、分析する手法、ツールが普及したことにより、ビッグデータを有効に活用するハードルが下がりました。

このような状況がすべて整ったことで初めて、ビジネスに付加価値を生み出すための方法の一つとしてビッグデータによる予測、分析、解析が有効とされるようになったのです。

 

ビッグデータ活用のメリット

ビッグデータの活用には大きなメリットが存在しています。

  • 過去と現在を分析、解析し、将来を予測すること
    大規模なデータの集積を行いビッグデータとすることで、過去と現在を解析、分析できるようになります。
    過去と現在の傾向を知ることは未来への予測につながるものです。また未来の予測は、生産性を向上させ投資収益率を向上させるための示唆となるものです。
  • 現在のサービスに新たな価値を付与させる機会を持てること
    ビッグデータを用いてビジネスに新たな可能性を生み出すことができれば、それを新たなサービスや商品に活かすことができます。たとえば、ECサイトでの検索、購入時にユーザへのおすすめの製品を示してくれるサジェスト機能は、ECでの商品販売に情報の提供という価値を付加しています。また、リアルタイムに近い気象情報データの集積により、精度が高く、よりローカルなエリアに向けた天気の予測が提供されるようになったことも、新たな価値を得たサービスだと言えるでしょう。

 

ビッグデータと人工知能(AI)の関係性

ビッグデータは人間が手作業で分析、解析できる量のものではなく、コンピュータによる自動化、とりわけAIを使った処理が有効活用の要となります。しかし、そこには大きな課題があります。

活用における課題

ビッグデータを活用するには、環境整備が必要となります。大量のデータを格納しハンドリングするためには規模の大きなコンピュータとストレージを用意しなければならず、コストがかかります。また、データは重要な機密情報であることも多く、高度なセキュリティも必要となってきます。データのソースとなる既存のシステムについても、総務省のDXレポートで「2025年の崖」として問題視されているシステムのレガシー化、ブラックボックス化が発生しており、即時にビッグデータに応用できないという問題もあります。

もう一つの課題としては、データサイエンティストの人材枯渇の問題があります。データを有効に活用すべく分析、解析を行うデータサイエンティストは、数学的素養とAI、データベース等の専門知識が必要となる職種です。データサイエンティストの育成には多くのコストと時間がかかるため、ビッグデータの活用を目指す企業が満足できるだけ人数が成長していません。そもそも日本ではIT人材そのものが不足しており、労働人口の減少からその流れに拍車がかかる傾向にあります。

 

ビッグデータと人工知能(AI)の活用事例

このような状況下でも、実用レベルでも使用されているビッグデータ×AIの取り組みは存在ます。人材発掘への利用、自動運転への適用における具体例を見てみましょう。

 

人材の発掘

2017年、通信事業大手のソフトバンクは、新卒採用のエントリーシート選考にIBMのAIワトソンを導入しました。将来活躍する人材をAIによってエントリーシートの段階で選考することにより、人事、採用の分野での効率化を図っています。さらに2020年には、面接についてもAIシステムによる選考を導入したことも発表されています。

他にも、AIによってエンジニアの能力をスコア化したり、それを用いた転職サービスが展開されたりといった話題もありました。

 

自動運転

自動運転には、画像による情報の認識と判断、地図の作成のためのデータの収集およびその解析作業が必要となります。そこで活用されているのがAIです。実証実験等で得た膨大なデータをもとに、安全に最大限に配慮した運転を自動で行います。また、リアルタイムによる自動車の運転状況を集めビッグデータとして活用することで、渋滞や気象状況、道路状況などを知らせるMaas(Mobility as a Service)、スマートモビリティの分野にも、ビッグデータ×AIの技術は利用されています。

 

人工知能(AI)を活用するために必要な能力

IC定期券で電車に乗る。スマホやタブレットでニュースを確認する。コンビニで買い物をする。私たちの毎日の何気ないシーンにおいても、実は様々なデータが収集され、ビジネスに活かされています。そして、加速するIoT化によって、そのデータ量と種類はますます拡大中。まさに“ビッグデータ”の時代が到来しているのです。

そのような中、データマイニングやビジネスインテリジェンス(BI)など、データ分析の手段について耳にする機会が増えたという方も多いのではないでしょうか。特にビッグデータと連動して、第三次人工知能(AI)ブームと呼べる昨今では、データ分析は急速により身近なものになりつつあります。

ではこのようにデータ解析技術や人工知能の一般利用が進む中、今後私たちにはどのような能力が求められていくのでしょうか。平成28年度の総務省の調査研究によると、将来的に人工知能(AI)が広く一般化する社会においては、次のような能力が重視されることが明らかになっています。

人工知能(AI)を設計・開発するような時には、企画や創造力を、アルゴリズムを設計・開発するような場合には論理的思考能力が、人工知能(AI)を運用する場合には、関係各所との調整力といった能力がそれぞれ必要になるといいます。ここで注目したいのが、求められる能力の優先順位が日米間で異なる点です。米国では情報収集能力や課題解決能力、論理的思考などの業務遂行能力が最も重視されていますが、日本ではコミュニケーション能力が重視されています。米国では一般に個人の専門性とタスクが一致しているのに対して、日本ではマルチタスクで業務を行うことが多いためと思われます。しかしながら、ここから読み取れるのが、日米間での情報リテラシーのギャップや、情報収集能力の格差についても現れているのではないでしょうか。

これは、企業におけるデータ分析・活用においても同様ではないでしょうか?果たして、米国と同じレベルで日本でも業務遂行のために情報収集やデータ分析が十分にできているのでしょうか?日本において、ビッグデータによる社会的な環境の変化に対応するために、必要とされることは一体何なのでしょうか?

 

ビジネスにおける課題

組織としてデータ分析・活用ができているか?

この記事を読んでいるあなたも、顧客情報や売上推移など、多様なデータを収集・蓄積しているはずです。では、実際にそれらのデータはどのようにビジネスの現場で活用されていますか。あなたのデータ分析活用について、下記に当てはまるものがあるか、チェックしてみましょう。

これらの項目に一つでも当てはまるなら、組織としてデータ分析活用に課題があると言えるでしょう。つまり、データが誰にでも手軽に活用できる状態・環境ではないということ。収集された大量のデータが分析されずに“宝の持ち腐れ”状態に陥っている可能性があります。社内の誰もが簡単にアクセス・活用できない、リアルタイムで意思決定に活用できないという状況は、経営判断を誤らせたり、鈍らせたりすることにもつながりかねません。

 

ビジネスリーダーの2人に1人が課題を認識

実は、前述したデータ分析・活用にまつわる課題において「当てはまる」または「非常に当てはまる」と回答したビジネスリーダーの割合は、ほぼ半数にのぼります。データ分析活用に苦戦している現状が浮かび上がりました。

 

ビジネスにおけるデータサイエンスは、どうあるべきか?

従来の“勘”や“経験”のような曖昧な裏づけではなく、確かなデータサイエンスに基づいて、ビジネス上の意思決定を行えるようになることが必要です。しかし、誰もがデータサイエンティストになる必要はあるのでしょうか?組織としてデータ分析・活用の環境を整えることで、部署や役職を問わず誰もがデータサイエンスに基づいて日々の業務を遂行できる、すなわちビジネス上の意思決定が行える「データサイエンス力(りょく)」を手にすることはできないのでしょうか?

 

ポイントは「顧客の時代」と「スピード経営」

組織としての「データサイエンス力(りょく)」には、2つのポイントがあります。ひとつは、顧客がマーケットの主導権を握る「顧客の時代」に対応すること。もうひとつは、めまぐるしい市場変化に対して迅速な意思決定を行う「スピード経営」を実現すること。

IoTとビッグデータの時代、ビジネスの成功の鍵となるこれら2つのポイントをふまえて、いかに組織としてデータサイエンスを味方にすべきか、その目指す姿について詳しくは、eBook「IoT、ビッグデータの波に乗り遅れないためのデータサイエンス力(りょく)」を。いち早く組織としての環境整備に取り組み、業績を大きく伸ばした事例もご紹介しています。データ分析・活用によって新たなチャンスを切り拓きたいすべてのビジネスパーソン必見の、データサイエンスの“入門編”です。

 

まとめ

ビッグデータの有用性や価値についての認識は広がり続けており、実用レベルでの普及がますます進んでいる状況です。また、そのビッグデータを有効に利用し、DX実現への有効なアプローチとして期待されるAIの技術も、年々その存在感を高めています。

ビッグデータとAIを活用した分析、解析は、情報の可視化、傾向の抽出、判断の自動化、高速化、将来の予測などの知見を手にすることにつながります。eBook「IoT、ビッグデータの波に乗り遅れないためのデータサイエンス力(りょく)」もご覧いただきながら、このムーブメントを逃さずビジネスに活かしていくことをおすすめします。

参考文献:

総務省「平成28年版情報通信白書」2016年7月29日

総務省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」